もと米証券取引委員会の議長Mary Jo White氏の記事、”知能犯罪から学んだこと”を紹介します。(引用:ビジネス書Harvard Business Review2019年)
知能犯罪とは暴力,威力,脅迫などによらず,知能によってなされる犯罪のことを指します。たとえばして脱税・横領・使い込み・贈収賄,背任罪(はんにんざい)などです。
最近の例でいうと、元日産自動車会長のカルロスゴーン氏のケースです。会社法違反(特別背人)の理由などで逮捕されました。
犯行内容は、商取引に見せかけて、資金を迂回させて自己に還流していたということです。企業の資金を私的に使用していました。
程度はあるにしろ、会社員として働いていれば、社内で実際に耳にしたり、退職させられた人を見る機会があるかもしれません。
キーとなる3つの防止策
✔倫理文化を根付かせる
✔マネジメント層に通知が行くシステムを構築
✔トップが不正に対する罰則を徹底する
知能犯罪に関するMary氏の経験
Mary氏が1979年、法曹界に進出した時、彼女の事務所のある南ニューヨーク地区では、知能犯罪はそれほど注意を引くものではありませんでした。それよりも、検察官らは殺人、麻薬組織の大物やギャングに関する事件に多くの時間を費やしていました。
この頃、多くの検察官にとって財務的な犯罪は、深刻なあるいは興味があるものとして考えられていなかったのです。しかし、様々な理由により状況は変化しました。
過去30年、弁護士たちは大規模な知能犯罪の案件を担当してきました。そして、うまく犯罪を抑制してきています。例えば、世界の金融センターとして知られる、アメリカのウォールストリートにある企業らは、検察官がどのようにしてインサイダー取引のケースを扱うのかに、注意を向けています。
そして、ウォールストリートで働く人たちは、”うわ~、私みたいなことをしている、〇〇氏が、知能犯の罪で、長期間刑務所に行くことになったようだ”と影でうわさ話をしているのです。
知能犯罪を抑制するためには、実刑判決を与えることが一番効果があります。ほとんどの知能犯罪の被告人は良い生活を送っており、そして彼らは自由と解放に価値を置いているからです。
これら犯罪に対して起訴し、知能犯を刑務所に送ることは、同様な行為を行っている人間を本当に変えることつながるのです。
Mary氏は検察官として、私は知能犯罪を最優先に取り組み、一線を超えた時の犠牲がどれだけ大きいかを人々に気づかせてきました。
また、彼女は多くの被告の抗弁を担当してきました。そしてその経験は彼女に、何が人を知能犯罪を実施する動機づけとなるのか、見識を与えたと言います。
検察官の場合、疑惑をかけられた犯罪者とは一定の距離を保つ必要がありますが、自分が彼らを抗弁する立場となった場合、かなり親密な方法で彼らを知能犯罪に駆り立てたモチベーションを探ることになるのです。
なぜ彼らは、知能犯罪を行ったのか?
理由の一つとして、恐喝や形に見えて他人に被害をもたらすような犯罪とは異なり、知能犯罪は、深い罪の意識を感じさせていないようです。
例えば税金詐欺では、実際はそうではありませんが、それによる犠牲者はだれもいないと、認識されているかもしれません。
知的犯罪の動機の一部は、人間がもつ”欲”です。もちろん、実際はより深く複雑な背景が関係してくることになりますが。
また、他の理由として、人間の自尊心が一般的に過少評価されていることが上げられます。こういった犯罪を犯す人々の多くは、成功を続けてきた人です。そして、彼らは失敗することを恐れているのです。
しかし、実際はかなり頻繁に、経済や市場変化は彼らを失敗の道に陥れるのです。そういった状況になっても、こういった人たちは、成功者であると、他人から見られたいのです。
魅惑がつきまとう高リスクなビジネスでは、財務的なモチベーションがかなり見られます。ですが、人は、人間の本質やステータスを維持したい、そして成功を続けたいという、欲を持っていることを忘れてはいけません。
その人間の自尊心による欲が知的犯罪につながるのです。
防止のため、企業がとるべき行動
Mary氏は倫理的、法律的な過失を経験した企業を調査する時、何が起きたかを明らかにしようとするだけではありません。その調査過程の基準事項として、将来その不正を防止するための、助言を与えます。
企業の持つコンプライアンスプログラムは重要ですが、本当に問題となるのは組織に対してリーダーたちが作りだす企業文化と風潮です。それはたびたび、過失を再度発生させない確率を増加させるという、効果的な方法となります。
不祥事の余波として、数人のリーダーたちは何が起きていなか知らなかったと主張します。時折、それは真実ですが、そうでない場合、リーダーたちが悪いニュースを彼らのレベルまで通知されるコミュニケーションシステムを設置したか、あるいは悪いニュースに対してリーダーシップを保護するようなシステムを設置していないか、確認する必要があるのです。
どの企業も、内部告発に対するホットラインを持っており、一部の人間は直接、監査委員会やCEOのオフィスにまで、コンタクトすることができます。
こういったシステムでは、上層部のリーダーらは活発的にコンプライアンスや疑惑を追及する傾向にあります。そしてコンプライアンス文化はより強固なものとなるのです。
対照的に、あるホットラインはリーダーたちに、説得力のある反証を与えるシステムが設置されています。つまり、リーダーたちがそれについて”知らない”と言えば、それっきりとなるのです。
こういった企業は、苦情を報告するシステムはあるが、あまり使用されたことがないのです。理由を考えた時に、大半の場合、従業員たちは報復される恐怖を感じて、使用を渋っていることが考えられます。
犯罪や不正を防止する試みの中で、企業が作り出す大きな過ちは、ただ単にリソースを多く投入し、コンプライアンスを強化しようとすることです。
リーダーたちは、追加投資した費用がすべて、同様の効果を作り出すと信じていますが、そのようにうまくは行きません。
特に、グローバル組織の場合、かなり頻繁に、他国の子会社やジョイントベンチャーなど、本社から遠く離れた場所で問題が発生するのです。
ほとんどの防止機能は、その企業文化によるものが大きいのが実情です。仮にあなたが組織の新たなリーダーになるのなら、Maryの助言は、あなたがだれであるのか、あなたが重要と見る価値は何のか、従業員に知らせること、です。そして、正しい行為を行うことが、どれだけ重要かを話すのです。
従業員が不正な行為を発見した場合、必ずリーダーに報告するプロセスを明確にします。そして、企業は組織の中で、報告した従業員を支援することです。この方針から脱線すれば、企業は弱体化し、従業員はそのようなシステムを実施することはできなくなるのです。
リーダーは、こういったメッセージを送ることが重要であり、そして、実際に実施しなければなりません。
倫理文化を根付かせる必須の行動は、不正に対してゼロ許容方針があるかどうかです。
多くの企業はその方針があると主張しますが、高い能力の持ち主やシニアチームがルールを破った場合、ビジネスへの影響や彼らの忠誠心を考慮して、リーダーたちは簡単な措置を取る可能性があります。
結果として、こういった措置は企業のすべてを弱らせるのです。
ただ、コンプライアンスや監査のみに頼ってはいけません。一線を超えた従業員に対して、進んで罰則を与える。倫理文化を構築するため、ゼロ許容の約束を徹底的に追求し、言葉だけでなく、行動をとることです。
あとがき
日本の企業より、アメリカ企業の方がコンプライアンスの見方は厳しいです。極端に言えば、日本企業で問題なかったことが、アメリカ企業ではNGとなり、下手すれば首となるのです。
知らなかったでは済まされず、訴訟が多い国なので、企業も社内の方針には厳格に従います。いくら仕事ができても、重要な役職でも、違反者には厳しいのがアメリカ企業です。
アメリカで働く場合、特にマネジメント層としてかかわっている人は、成果だけに捕らわれていては、足元を救われる可能性があるのです。駐在員として、配属された場合名では、日頃の英語でのコミュニケーションをベースに、従業員から情報が上がってくる関係を構築するようにしましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。